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東京地方裁判所 平成7年(特わ)1901号 判決 1995年12月04日

裁判所書記官

丸山和子

本店所在地

東京都新宿区大久保一丁目一〇番一五号

有限会社新宿ソフト

(右代表者代表取締役 森下景一)

本籍

東京都中野区上高田三丁目二五番

住居

東京都中野区上高田三丁目二五番一六号

会社役員

森下景一

昭和二五年一二月二六日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官長島裕、弁護人小川明子各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人有限会社新宿ソフトを罰金三〇〇〇万円に、被告人森下景一を懲役一年六月に処する。

被告人森下景一に対し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社新宿ソフト(以下「被告会社」という)は、東京都新宿区大久保一丁目一〇番一五号に本店を置き、遊技場の経営等を目的とし、実際にはテレホンクラブ、ダイヤルQ2を利用した風俗関係事業等を営む資本金一〇〇〇万円の有限会社であり、被告人森下景一(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億八八七一万四八九八円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成四年五月二一日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄新宿税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億五一六三万二四〇七円で、これに対する法人税額が一億三〇九六万五九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第一四八二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億八二三七万一六〇〇円と右申告税額との差額五一四〇万五七〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書(1)参照)を免れた

第二  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が八三五九万八四三七円(別紙2修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年五月一七日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二四一六万八八〇九円で、これに対する法人税額が八〇一万二四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三〇二九万八六〇〇円と右申告税額との差額二二二八万六二〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書(2)参照)を免れた

第三  平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億五一七〇万〇五三〇円(別紙3修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年五月一六日、前記新宿税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億一七九五万七七九一円で、これに対する法人税額が一億一八三一万〇五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億六八四六万四一〇〇円と右申告税額との差額五〇一五万三六〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書(3)参照)を免れた

ものである。

(証拠の標目)

括弧内の甲乙の番号は、証拠等関係カード(検察官請求分)の証拠番号である。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙1ないし3、7)

一  森下明子、小玉峯夫、高原正雄及び丹羽登の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の業務委託料調査書、減価償却費調査書、広告宣伝費調査書、租税公課調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書及び損金の額に算入した附帯税調査書

一  検察事務官作成の搜査報告書(甲6、11、18、38)

一  登記作成の登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の雑損失調査書

判示第一及び第三の各事実について

一  大蔵事務官作成の支払手数料調査書

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙4)

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書

一  検察事務官作成の搜査報告書(甲21)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第一四八二号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  浅井哲夫、篠塚浩及び中山芳明の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の期末商品棚卸高調査書、備品費調査書、固定資産除却損調査書及び事業税認定損調査書

一  検察事務官作成の搜査報告書(甲26)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙5)

一  大蔵事務官作成の当期仕入高調査書及びQ2企画料調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同号の2)

判示第三の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙6)

一  宮越敏郎、米岡良一、青木とも子及び吉原常善の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の総売上高調査書、期首商品棚卸高調査書、通信費調査書及び雑給調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(同号の3)

(累犯前科)

被告人は、(1)昭和五七年六月二三日東京地方裁判所で職業安定法違反の罪により懲役一年二月(四年間執行猶予、昭和五八年八月八日右猶予取消し)に処せられ、昭和六二年六月二四日の執行を受け終わり、(2)右裁判以前に犯した児童福祉法違反の罪により昭和五七年七月三〇日東京家庭裁判所で懲役二年(四年間執行猶予、昭和五八年八月八日右猶予取消し)に処せられ、昭和六二年一一月二四日右刑の執行を受け終わったものであって、右各事実は検察事務官作成の前科調書及び判決書謄本(乙13)によってこれを認める。

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社について 判示各事実につき、いずれも法人税法違反一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

2  被告人について 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人について いずれも懲役刑

三  再犯加重

被告人について 判示第一の罪につき、刑法五六条一項、五七条

四  併合罪の処理

1  被告会社について 刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人について 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

五  刑の執行猶予

被告人について 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、テレホンクラブ(いわゆるテレクラ)、ダイヤルQ2を利用した風俗関係事業等を営む被告会社の代表取締役であった被告人が、被告会社の所得を秘匿して、三事業年度にわたり、合計一億二〇〇〇万円余の法人税を脱税したという事案であるが、脱税額は右のとおり高額である。被告人は、昭和六二年七月ころから個人でテレクラを経営していたが、平成元年九月にこれを法人化して被告会社を設立し、平成三年三月ころからは、被告会社でダイヤルQ2を利用した風俗関係事業等も営んでいたところ、この間の平成二年八月の税務調査で、被告会社が同年三月期の確定申告で売上を除外していたことが発覚し、代表者である被告人は厳しい注意を受けたにもかかわらず、今度は、被告会社の元従業員、取引先の会社経営者等に報酬を支払うなどして架空・水増しの領収証を作成させ、業務委託料、広告宣伝費等を架空・水増し計上したほか、減価償却費、備品費、固定資産除却損等の勘定科目についても同様に不正な経理操作をして本件犯行に及んだものであり、被告人の納税意識の欠如は甚だしく、犯行態様も計画的かつ巧妙悪質である。被告人は、被告会社の事業規模を拡大するための蓄財を主な犯行動機としていたものであるが、被告会社は被告人のワンマン会社であって、これも結局は被告人の野心を満足させるためのものであり、被告人の個人的支出を被告会社の経費として計上していることも併せて考えると、動機にも酌量すべき事情はない。さらに、被告人には懲役刑を含む少なからぬ前科があることを考慮すると、被告人の規範意識の稀薄さは顕著であるといわざるを得ない。以上によれば、被告人及び被告会社の刑事責任は重いというべきである。

他方、本件のほ脱率は通算三二・四パーセントと比較的低率であること、被告会社は犯則調査終了後、国税当局の指導に従って本件各事業年度について修正申告をした上、本税及び附帯税等を完納していること、被告人は搜査公判を通じて事実関係を認め、今後は経理体制を改善するとともに、被告会社の事業を風俗関係から堅実なものへ漸次転換していくなどと述べて反省の態度を示していること、被告人及び被告会社には同種の前科はないこと、被告人には妻と四人の子供がいることなどの酌むべき事情も認められる。

そこで、これらの諸事情を総合考慮し、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金四〇〇〇万円、被告人・懲役一年六月)

(裁判官 中里智美)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

<省略>

ほ脱税額計算書

<省略>

ほ脱税額計算書

<省略>

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